凶犬の眼、読書感想(孤狼の血を読んだもしくは映画を見た方へ)

書籍

「凶犬の眼」が文庫本になり、身内からもらったので読んでみました。結論から言うと何も知らなければ大変面白く周作!本作は、前作の「孤狼の血」同様に、緻密な構成や乾いた文体などはそのままに大上の意思を引き継いだ日岡の活躍を描いていて読み応えのある一冊となっています。何も知らなければと書いたのは、ヤクザアウトロー関係に興味があって山一抗争について多少の知識があると文中の登場人物や事象が、実在の人物や事件と繋がってしまい史実との違いを探すような読み方になってしまいます。

なお、気を付けたいのは今年の8月に公開される孤狼の血LEVEL2は、映画版完全オリジナルストーリーで凶犬の眼の映画化ではないので、お気を付けください。白石和彌監督の一作目が良かったので、出来れば「凶犬の眼」で2作目を撮って欲しかったのですが、残念です。これは私の推測ですが、「凶犬の眼」はあまりにも実話ベースの部分が多く、昨今の状況では映画化が難しかったのではないかと邪推しています。

國光のモデル

大上殉職の後、郡部の駐在所に飛ばされた日岡が出会った國光のモデルは、石川裕雄で間違いありません。石川は山一抗争において竹中4代目山口組組長と中山若頭を殺った狙撃グループのリーダーで現在も旭川刑務所に無期懲役で服役しています。石川は極道の鑑と言われるほど心酔している人も多く、その生き様が数々の伝説となっています。作者の柚木先生もよほど石川に魅力を感じたのでしょう。時には主人公の日岡がかすんでしまうほどの、生き生きとしたキャラクターとして描かれています。

「凶犬の眼」に感じる違和感

前作の「孤狼の血」が広島を舞台にしながらも、いわゆる仁義なき戦いをモデルとせず、架空のヤクザ対警察小説となっていたのに対して、「凶犬の眼」で明らかに山一抗争と取れる記述があり、今回は実話ベースの話も入っているんだと読み進めました。まあ、時代的に過去最大の暴力団抗争を避けて話を作るのも難しいのだろうと思っていました。しかし國光のモデルが石川だと気づいてから、組織名や親分の名前を見てあまりにも史実に寄せすぎていないかと感じ始めました。

文中      史実

北条組     北山組

義誠連合会   悟道会

こうなると作中の事件が史実のどの事件に当てはまるのかに興味が行ってしまい単純にストーリーを楽しむ事が出来なくなりました。また、作中の抗争事件と國光との関係性も史実通りであり、やりすぎ感があります。最後に國光が日岡に逮捕されたのが広島県郡部のゴルフ場造成地ですが、史実は福岡のゴルフ場で石川は捕まっています。

まとめ

最初にも言いましたが何も先入観を持たずに読めば楽しめる秀逸な作品です。決して読んで損はありません。もし、この作品を読んで國光と言う男に惹かれた方は、モデルの石川裕雄について調べてみて下さい。もちろんヤクザと言う反社の団体に属し、現に犯罪を犯して服役している身ですので賞賛される人間ではありません。ただ、昭和から平成への過渡期に自分の生き様を貫いた徒花のような彼の人生は、今この令和の時代において、松明のように一部の人の心を照らしています。裁判で死刑を求刑されたにも関わらず全ては自分の責任として、無期懲役の判決を受けました。他の実行犯が20年ほどの懲役に対して石川の量刑は重いと言えます。ヤクザは懲役を修行と捉えて減刑を求めないと言われています。彼がどんなに模範囚であろうと、減刑を求めなければ出てくる事はないでしょう。この作品は不思議な小説です。柚木先生ほどの作家に一人の男の生き様が影響を与えてノンフィクションのような作品を書かせてしまったと言えます。

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