今になってもリアルな狩撫麻礼の描く世界
狩撫麻礼という漫画原作者をご存知でしょうか。一昨年70歳で他界されたが数多くの名作を残しています。訃報を聞いた際は「えっ、そんなに歳とってたの」と思ったけど考えたら自分が一番影響を受けた20代から30代の時に、狩撫麻礼も40代から50代に差し掛かる年齢でそれは彼の原作の主人公の年齢と一致しています。私の今までの人生で影響を受けて未だに行動原理の一つになっている作家さんです。
最初に読んだのはかわぐちかいじと組んだ「ハードアンドルーズ」だったと思います。ボクサー崩れの探偵が主人公でその中の狩撫節に魅了されました。主人公の土岐正造は、反権力と弱者やはみ出し者に対するフラットな視線で資本と広告、メディアが一体となった既存システムに抗いながら日々変わりゆく時代と対峙していきます。狩撫麻礼の作品は一貫して反権力とシステムへの疑念がテーマとなっています。このハードアンドルーズが1983年~でボーダーが1986年~始まっており、バブル経済前夜とバブル経済の真っ只中ですべての価値観が経済に集約されていく日本社会に対する痛烈なカウンターとして発表されました。当時中学~高校生だった僕はその頃知ったパンクロックと相まってあちら側(体制側)には行かないぞと強烈に意識しました。その後バブルも崩壊して日本は混迷の時代を迎えましたが、システムは姿を変えて隠然と存在していると思います。当時はいなかったネトウヨが台頭してきて、そんな奴らに支持された首相が長い間君臨したりと余計に酷くなっています。
狩撫麻礼原作で読んで欲しい作品
狩撫麻礼はいくつかの別名でも活動しており、土屋ガロン名で発表したオールドボーイは韓国で映画化されて日本でも人気を博しました。でも私が狩撫麻礼の最高作品だと思っているのは、迷走王ボーダーです。40過ぎの主人公の蜂須賀と久保田と木村が繰り広げるコミカルだけど、あちら側(体制側)との境界性をさまよう彼らボーダーを描いたこの作品に打ちのめされました。加藤広大さんのブログに、当時ボーダーを読んで旅に出てしまい未だにさまよっている仲間がいるとありました。私もボーダーを読んで心の旅に出てしまい、未だに現実世界との折り合いが付かない一人です。ボーダーから学んだ事はたくさんあります。ニールヤングを知ったのもボーダーでした。
ボーダーは基本1話もしくは、2話、3話完結漫画でしたが、ブルーハーツが出て来て蜂須賀がリタ・マーレイアンドウェイラーズをバックに東京ドームでライブをするワンクールはこの作品のピークポイントと言えます。システム(あちら側)の権化とも言える後閑プロデュースによるこのライブで蜂須賀はシステムの針の穴のような小さな綻びを見つけて魂のバトンを次世代に渡したと実感します。その後ライブの反動から横浜でホームレスになり、最終話「女の鉄筋工」でラストを迎えます。
狩撫麻礼作品が今に伝える事
ボーダーの連載時はバブル経済真っ只中であり、まだ日本自体に余裕があった時代でした。30年前の作品ですが作中の物価は今と変わらず逆に高いと思えます。その後日本は失われた10年を経てより混迷した時代に突入します。システムは綺麗な衣を捨ててむき出しの暴力を持って襲い掛かってきました。日本は裕福な国では無くなり、勝ち組負け組やグローバルスタンダードが言われて、落ちぶれた日本を認めたくない人たちはヘイトスピーチを始めました。世界的にもナショナリズムが強くなりファシズムの影が伸びてきて終末感が漂いました。そんな時代に狩撫麻礼は亡くなってしまいましたが、今だらからこそ蜂須賀が繋いだバトンを引きつぐ時だと思います。2020年を期に時代が変わると言われています。もう分断と争いに疲れてきました。本質と魂が問われる時代にパンクロックとレゲエミュージックをBGMに歩いて行きましょう。